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開きかけたフタ
夜。
夕飯を作る気力がなくて、
ソファに沈み込んだまま時間だけが過ぎていく。
スマホを開くと、
大和のリールのサムネが目に入った。
押せない。
でも、押せてしまいそう。
大和は今、どんな声で話してるんだろう。
どんな顔で笑ってるんだろう。
見られないからこそ、
余計に見たくなる。
想像が勝手に膨らんで、胸が苦しい。
「私……どうしたらいいの」
声にならない呟きが、
静かな部屋に落ちた。
深夜、俊介が帰宅し、
いつも通りの声で「ただいま」と言う。
その“普通”が胸に刺さる。
笑って返すけれど、
心はもう別の場所にいる。
フタはまだ開いていない。
でも、もう閉まらない。




