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蘇る声
仕事中、ふと手が止まった。
理由なんて分かってる。
大和の声が、突然胸の奥で響いたから。
15年前と同じ、
落ち着いた、優しい、あの声。
忘れたはずだった。
忘れたふりをしていただけだった。
フタをした気持ちは、
消えたんじゃなくて、眠っていただけ。
同僚に「大丈夫?」と聞かれ、
笑って誤魔化す。
でも、心は誤魔化せない。
俊介から「遅くなる」とLINEが来て、
またほっとしてしまう。
ひとりになれる時間が増えるほど、
大和の記憶が勝手に浮かぶ。
見たい人が誰なのか、
もう分かってしまっている。
でも、認めたくない。
認めたら、戻れない。
フタは揺れている。
自分でも分かるほどに。




