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涙の音
夕方、俊介と買い物に出かけた。
少し前を歩く葵を見て、
俊介がぽつりと言った。
「……なんか痩せた?」
振り返ると、
心配そうな目がこちらを見ていた。
「最近忙しくて。大丈夫だよ」
笑って返したけれど、
胸の奥がきゅっと縮む。
「ちゃんと食べてる?」
俊介の優しさが、
どうしようもなく重い。
俊介の横にいるのに、
心は別の方向を向いている。
その事実に、
気づいてしまった。
……私、もう無理かもしれない。
でも、本当は心のどこかでは、
とっくに分かっていた。
声には出さない。
けれど、その瞬間、
胸の奥で何かが静かに落ちた。
夜。
俊介が寝静まったあと、
リビングの灯りだけがぼんやりと残っていた。
涙が止まらない。
私は、誰の人生を生きてるの?
スマホを手に取る。
大和のリールのサムネが、
そこにある。
押さない。
でも、押せてしまいそうな自分が怖い。
涙の音だけが、
静かな部屋に落ちていった。




