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優しさの刃
俊介は、昨夜の飲み会の疲れも見せずに、
いつも通りの声でキッチンに立っていた。
「昨日遅くなってごめんね。
今日、どこか行く?」
その“普通の優しさ”が、
胸の奥にそっと刺さる。
「ううん、大丈夫だよ」
笑って返した声が、
自分でも驚くほど軽かった。
軽いのに、苦しい。
俊介は悪くない。
むしろ優しい。
だからこそ、苦しい。
テーブルに置いたマグカップの縁が、
少しだけ滲んで見えた。
私は、どうしてこんなに苦しいんだろう。
朝の光はいつもと同じなのに、
胸の奥だけが、
静かに沈んでいく。
俊介が「行ってくるね」と笑ったとき、
その笑顔が眩しすぎて、
目をそらした。




