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20年間忘れられなかった人と、もう一度恋をする  作者: 沈丁花
第76章

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優しさの刃

俊介は、昨夜の飲み会の疲れも見せずに、

いつも通りの声でキッチンに立っていた。


「昨日遅くなってごめんね。

 今日、どこか行く?」


その“普通の優しさ”が、

胸の奥にそっと刺さる。


「ううん、大丈夫だよ」


笑って返した声が、

自分でも驚くほど軽かった。


軽いのに、苦しい。


俊介は悪くない。

むしろ優しい。

だからこそ、苦しい。


テーブルに置いたマグカップの縁が、

少しだけ滲んで見えた。


私は、どうしてこんなに苦しいんだろう。


朝の光はいつもと同じなのに、

胸の奥だけが、

静かに沈んでいく。


俊介が「行ってくるね」と笑ったとき、

その笑顔が眩しすぎて、

目をそらした。

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