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触れたら壊れるもの
夜。
俊介は飲み会で不在。
静かすぎるリビングで、
葵はひとり座っていた。
俊介がいなくても、
心は軽くならない。
むしろ、
自分の心の声が大きくなる。
スマホを手に取る。
ホーム画面に、
大和のリールのサムネが見える。
指が震える。
「……見たら、終わる」
押せない。
でも、押してしまいそうな自分が怖い。
涙は出ない。
代わりに、胸の奥が静かに痛む。
触れたら壊れるものを、
自分が抱えていることに気づいてしまった。
葵の世界が、
静かにひび割れ始めていた。




