前へ目次 次へ 264/287 気配の揺らぎ 夕方、店で仕込みを続けていると、 結衣がぽつりと言った。 「最近、大和さんって…… 誰かのこと、待ってるみたいな感じですよね」 手が止まった。 「待つ人なんて、今いないんだけどなぁ」 笑って返したけれど、 胸の奥がざわつく。 待っているのか。 誰を。 何を。 結衣はそれ以上言わなかった。 ただ、大和の“気配の揺らぎ”を感じ取っていた。 葵の気配が消えた静かな空白が、 大和の中に残っていることを、 本人だけがまだ気づいていない。