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葵の胸の音がきしむ
仕事中、書類をまとめていると、
胸の奥がふっと締めつけられた。
「葵さん、大丈夫?」
同僚の声に、慌てて笑顔を作る。
「うん、ちょっと寝不足で」
本当は違う。
心が、きしんでいる。
そのタイミングでスマホが震えた。
〈今日、会社の飲み会で遅くなる〉
普通のメッセージ。
優しい夫の、なんでもない連絡。
なのに、胸の奥が重く沈む。
「……うん」
返事を打つ指が、わずかに震えた。
俊介がいなくても、
心は自由にならない。
俊介の“正しさ”と“善意の圧”が、
葵の内側に残っている。




