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情と本心の間で
俊介が寝静まったあと、
葵はひとりでリビングに座っていた。
スマホは触れない。
触れたら、戻れなくなる気がした。
34歳。
リセットするには、現実が重すぎる。
俊介への情もある。
長い時間を積み重ねてきた。
裏切りたくない。
でも、心は別の方向を向いている。
「どうして……私はここにいるんだろう」
涙が、止まらなかった。
葵は知らない。
大和が今日、東京にいたことを。
自分と出会った場所で、
リールを撮っていたことを。
その奇跡が、
葵の胸にはまだ届かない。
葵の心は、限界の一歩手前で静かに震えていた。




