26/224
静かにはじまる闘い
春の終わり、雨が降り続く午後。
大和は妻・美咲とともに病院の待合室にいた。
白い壁、消毒液の匂い、
遠くで鳴る呼び出し音。
そのすべてが、現実を突きつけてくる。
「高田美咲さん、どうぞ」
診察室に入ると、医師は静かな声で言った。
「検査の結果ですが……乳ガンの転移の可能性が高いです」
美咲は一瞬だけ目を閉じた。
大和は息を呑んだ。
「……治療は、どうすれば」
声が震えていた。
医師は淡々と説明する。
手術、抗がん剤、放射線治療。
長い闘いになること。
副作用のこと。
生活が大きく変わること。
美咲は静かに聞いていた。
大和の手を握りながら。
病院を出ると、雨は小降りになっていた。
傘の下で、美咲はぽつりと言った。
「……怖いね」
大和はその手を強く握った。
「大丈夫だ。俺がいる。
一緒に乗り越えよう」
美咲は微笑んだ。
その笑顔は、どこか幼い子どものように頼りなく見えた。




