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34歳の重さ
「そろそろ家のこと、考えないとさ」
朝のキッチンで、俊介が言った。
「俺たちもいい歳だし。
って、最近思うんだよね」
俊介は悪くない。
むしろ優しいし、正しい。
でも葵には、その言葉が
“現実”として突き刺さった。
34歳。
まだ間に合う。
でも、ずっとは待てない。
その数字が、
未来を“選択”ではなく“期限”に変えてしまう。
胸がぎゅっと縮まる。
「……うん」
そう返すのが精一杯だった。
スマホは触れない。
触れたら、大和のリールが目に入る。
見たら、自分の本心が分かってしまう。
俊介への情がある。
長い時間を一緒に過ごしてきた。
忘れられない人がいることも、
俊介は知っていたのに受け入れてくれた。
だからこそ、壊せない。
でも、心は別の方向を向いている。
「私は……誰の人生を生きてるんだろう」
その問いだけが、胸の奥で静かに疼いた。




