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灯りの残り香
新幹線のホームに立つと、
まだ胸の奥に東京の居酒屋「灯」の空気が残っていた。
あの店の匂い。
あの照明の柔らかさ。
あの空気の温度。
過去じゃない。
未来のために東京へ来たんだと、ようやく思えた。
コラボが本格的に動き出したら、
東京と北海道を行き来する日が増えるかもしれない。
そう想像しただけで、
胸の奥がじんわりと温かくなる。
新幹線の窓に映った自分の顔は、
久しぶりに“軽く”見えた。
若返ったわけじゃない。
ただ、肩の力が抜けていた。
座席に腰を下ろし、なんとなくスマホを開く。
リールの数字が目に入る。
「……あれ、最近動かないな」
深夜にひっそり伸びていたあの気配が、
今日はどこにもない。
でも、追わない。
「まあ、そんなもんか」
数字に囚われるほど若くない。
ただ、胸の奥に小さな空白だけが残った。
それでも、前に進めている。
そのことが、少しだけ誇らしかった。




