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20年間忘れられなかった人と、もう一度恋をする  作者: 沈丁花
第73章

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葵の未来

葵は、スマホを枕元に置いたまま動けなかった。

触れたら、何かが壊れる気がした。


俊介はキッチンでコーヒーを淹れながら、

いつものように未来の話を続けている。


「さ、そろそろ家のことも考えないとね」

「子どもができたらさ、部屋どうする?」


その声が、今日はやけに遠く感じた。


返事ができない。

喉がつまって、言葉が出ない。


でも——

大和の笑顔だけが、ふっと脳裏に浮かぶ。


見ていないのに、見える。

あの少し照れた笑顔。

薬指に触れる癖。

声の温度。


それだけが、今の葵をぎりぎりのところで支えていた。


「私は……どこに向かってるんだろう」


胸の奥が静かに軋む。


葵は知らない。

大和が今、東京へ向かっていることを。

自分と大和が出会った場所へ向かっていることを。


知らないまま、朝が過ぎていく。

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