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残像に救われてる
夜。
俊介の寝息が一定のリズムで響く。
その音が、今日はやけに重い。
スマホは胸の前にある。
でも開けない。
開いたら、何かが壊れる気がする。
大和の笑顔が、ふっと脳裏に浮かぶ。
見ていないのに、見える。
あの照れた笑顔。
薬指に触れる癖。
声の温度。
それだけが、
今の私をぎりぎりのところで支えている。
でも現実は苦しい。
俊介の未来の話は、
私の未来ではない気がする。
「どうして……私はここにいるんだろう」
涙がひとつ、頬を伝う。
葵は知らない。
大和が東京に行くかもしれないことを。
その東京は、
自分と大和が出会った場所だということを。
知らないまま、
胸の奥だけが静かに軋んでいた。




