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見てないのに、見える笑顔
朝、目を開けた瞬間、胸の奥がきゅっと縮んだ。
昨夜の俊介の未来の話が、まだ身体のどこかに残っている。
「家のこと、そろそろ考えないとね」
「子どもができたらさ」
俊介は優しい声で言う。
その優しさが、今日は重かった。
私は返事ができない。
喉の奥がつまって、声が出ない。
スマホは見ない。
見たら、何かが壊れる気がする。
でも——
大和の笑顔が、ふっと脳裏に浮かぶ。
見ていないのに、見える。
あの少し照れた笑顔。
薬指に触れる癖。
声の温度。
それだけが、呼吸をつなぐ。
現実は苦しい。
俊介の未来の話は、私の未来ではない気がする。
でも、言えない。
コーヒーを淹れながら、
私は自分の手が少し震えていることに気づいた。
「私は……どこに向かってるんだろう」
その言葉が、初めて胸の奥で形になった。




