やっと言える報告
仕込みの手を止めた瞬間、
大和はふとスマホを取り出した。
「……そろそろ言ってもいいか」
誰に向けて、というわけじゃない。
でも、誰かに届いてほしい気持ちが、
胸の奥で静かに膨らんでいた。
カメラを向けると、
厨房の光が大和の横顔を柔らかく照らす。
「今日はちょっとだけ、仕事の報告を。
北海道の「灯」と、東京の「灯」のコラボが
いよいよ詰めに入ってきました。
……やっと言えます。
実は、東京の「灯」って、
僕が初めて店長を任されたお店なんです。
あの頃の空気とか、
一緒に働いてた人たちのこととか、
いろいろ思い出して……
なんか、懐かしい気持ちでいっぱいです。
だからこそ、ちゃんとやらなきゃなって。
いいもの作れるように、頑張ります」
話し終えたあと、
無意識に薬指に触れてしまう。
その仕草に自分で気づいて、
大和は少し照れたように笑った。
投稿ボタンを押すと、
胸の奥がふっと軽くなる。
すぐに資料を開き、
オンライン打ち合わせの準備を始めた。
東京の店舗とのやり取り。
コラボメニューの試作。
食材の確認。
やることは山ほどある。
でも、心は前に向いていた。
東京の居酒屋「灯」。
初めて店長を任された場所。
あの頃の空気が、
ふっと蘇る。
——あの時、よく笑っていた人がいたな。
葵の姿が一瞬だけ浮かぶ。
でも、痛みではなく、
ただ温かい。
「……よし、やるか」
大和は包丁を握り直した。
未来へ向かう音が、
静かに厨房に響いていた。




