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呼吸が浅くなる
朝、目を開けた瞬間、胸の奥がきゅっと縮んだ。
昨夜の俊介の声が、まだ耳の奥に残っている。
——子どもの話。
——未来の話。
——家族になりたいという言葉。
あの瞬間、身体が固まって、呼吸が止まった。
その感覚が、まだ抜けない。
「おはよう」
俊介はいつも通りの声で笑う。
その普通さが、今日はやけに怖かった。
私はぎこちなく返事をして、キッチンに立つ。
コーヒーの香りが広がるのに、胸の奥は重いまま。
スマホは見ない。
見たら、昨夜の続きみたいに、
何かがまた壊れてしまう気がした。
俊介は優しい。
優しすぎる。
その優しさが、今日は刃物みたいに刺さる。
「今日、早めに帰れそうだからさ。夜、一緒にご飯食べよう」
俊介は何も変わっていない顔で言う。
私は笑えなかった。
喉の奥がつまって、声が出ない。
昨夜の言葉が頭をよぎる。
その未来に、自分の姿が浮かばない。
胸が痛い。
呼吸が浅い。
でも、何も言えない。
ただ、朝が過ぎていく。
逃げ場のないまま。




