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誰かの気配
店のシャッターを開ける前、
大和はいつものようにスマホを確認した。
数日前に投稿したリールに、
“いいね”がひとつ増えている。
「……このタイミングで?」
誰が押したか確認しない。
でも、胸の奥がふっと温かくなる。
あの深夜帯に伸びる再生数。
あの静かな気配。
無意識に薬指に触れてしまう。
そこに触れるたび、
あのリールを撮った日の空気が蘇る。
「なんかいいことあったんですか?」
結衣が笑いながら言う。
「あればいいんだけどね」
そう返す声が、少しだけ揺れていた。
葵の名前を知らないまま、
大和の中で“誰か”の存在が形になり始めていた。




