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しこりが残る朝
朝、目を開けた瞬間から胸の奥がざわついていた。
昨夜の、あの気配がまだ抜けない。
俊介はいつも通りで、「おはよう」と笑う。
その声が、今日はやけに遠く感じた。
コーヒーを淹れながら、葵はスマホを見ないようにしている。
見たら、何かがばれてしまう気がする。
俊介がいる時間は、絶対に開かない。
そのルールが、いつの間にか自分の中にできていた。
数日前に押してしまった“大和のリールのいいね”。
あれが胸の奥でまだ熱を持っている。
薬指を見ないように、マグカップを両手で包む。
俊介の寝返りの多さ。
呼吸の変化。
背中越しの気配。
——気づかれてるかもしれない。
その考えが喉の奥にひっかかったまま、
今日も、何も言えないまま朝を過ごした。




