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灯りへの逃避
「そろそろ寝よっか」
俊介の声に、葵は笑って頷いた。
「うん……ちょっと片付けしてから行くね」
俊介が寝室に入るのを見届けてから、
葵はスマホを胸に抱えて深呼吸した。
触れたらいけないものに触れるみたいに、そっと。
寝室に入り、俊介の寝息を確認してから布団に潜り込む。
スマホの光が、暗い部屋で小さく揺れた。
再生したのは、昨日と同じリール。
湯気。光。包丁の音。
そして——大和の左手が、薬指に触れる。
その瞬間、胸がきゅっと縮んだ。
(……なんで?指輪してないのに)
知らない。
大和の過去も、理由も、痛みも。
ただ、胸の奥がざわつく。
俊介が寝返りを打つ。
葵は息を止め、スマホを胸に押し当てた。
ざわざわしているのに
その光が、たったひとつの逃げ場みたいに温かかった。




