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見守りの温度
仕込みの手を止めずに、ふとスマホを見る。
昨夜のリールの再生数が、ほんの少しだけ伸びていた。
「こんな時間に見る人、いるんだな」
独り言みたいに呟くと、胸の奥がふっとざわつく。
左手が勝手に動いて、薬指に触れた。
癖になってしまった仕草。
もう指輪はないのに、そこだけ時間が止まっているようで。
結衣が横目でそれを見ていた。
何も言わない。
ただ、静かに息を吸ってから、ふと声を落とす。
「大和さん、今日のリール……
声のトーンが、なんかすごく穏やかで優しく聞こえました」
包丁の音が止まった。
優しい?
誰に向けた優しさなんだろう。
自分でも分からない。
でも、胸の奥が少しだけ温かくなる。
遠くにいるはずの誰かの気配が、ふっと触れた気がした。




