触れてしまう場所
大和が休憩中、
ふと開いたインスタに、虹の写真が流れてきた。
名前を見た瞬間、胸の奥がじんわり熱くなる。
及川さん。
写真の端に、小さく指輪のようなものが写っていた。
その光を見た瞬間、
大和は“あの日”を思い出す。
——結衣の言葉。
「大和さんの人生……凍らせないでほしいです」
あの言葉に背中を押されて、
止まっていた自分を少しだけ動かすために、指輪を外した。
美咲を忘れるためじゃない。
前に進むためだった。
なのに今、
葵の指輪が胸に刺さる。
(幸せなら……それでいい。
それでいいはずなのに)
胸の奥が、静かにきしむ。
自分は前に進もうとした。
でも、及川さんはもう誰かと“幸せ”を選んでいる——
そう思った瞬間、
心のどこかがふっと緩んで、
同時に、締めつけられた。
その夜、リールを撮る手元がいつもより柔らかくなる。
湯気の向こうの光が、やけに優しい。
声も、少しだけ低くて温かい。
そして無意識に、
左手の薬指をそっと触ってしまう。
そこにはもう何もない。
でも、触れてしまう。
結衣はその仕草を見て、
(店長……“誰か”を想ってる)
と静かに気づく。
大和は、自分の揺れにまだ気づいていない。
ただ、葵の指輪の光が、
胸の奥で静かに波紋を広げていた。




