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画面越しの灯
何度目かの再生で、
葵はふと息をついた。
大和の手元の動きは、
相変わらず丁寧で、優しい。
包丁の刃が野菜に触れる音。
湯気の向こうに揺れる光。
木の匂いまで伝わってきそうな映像。
(……落ち着く)
俊介の影が、
少しずつ薄れていく。
呼吸が楽になる。
肩の力が抜ける。
画面の向こうにあるのは、
北海道の居酒屋「灯」の空気。
あの頃、
自分が少しだけ好きだった自分が、
ほんの一瞬だけ戻ってくる。
(こんな気持ち、久しぶり……)
大和の声が流れるたび、
胸の奥の冷たさが溶けていく。
葵は気づかない。
自分の表情が、
いつの間にか柔らかくなっていることに。
ただ、
画面越しの灯が、
静かに心を照らしていた。




