225/278
ほどける心
俊介が寝静まった夜。
葵は布団の中で、そっとスマホを胸の前に持ち上げた。
フォローしたばかりの大和のアカウントが、
画面のいちばん上に表示されている。
(……見てもいいよね)
ほんの少しだけ迷って、再生ボタンを押した。
湯気がふわりと立ちのぼる。
包丁の音が、静かに響く。
木のまな板に落ちるリズムが、心の奥に染み込んでいく。
「実は先日、東京の居酒屋「灯」にも行ってきまして……」
その声が流れた瞬間、
胸の奥がじんわりと温かくなった。
昨日は涙がこぼれたのに、
今日はただ、静かに心がほどけていく。
動画が終わる。
でも指が勝手に戻る。
(もう一回だけ)
再生。
終わる。
また再生。
気づけば、
十回以上繰り返していた。
同じ動画なのに、
見るたびに違うところが目に入る。
大和の声が流れるたび、
葵の心の奥で、小さな灯がそっと揺れた。




