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ホームの灯りに帰る
大和が北海道の居酒屋「灯」に戻った瞬間、
ふわりと木の匂いが鼻をくすぐった。
いつもなら、それだけで心が落ち着くのに——
今日は、胸の奥がざわついたままだ。
包丁を握る手が、わずかに重い。
「……はぁ」
気づけば、ため息が漏れていた。
「大和さん、おかえりなさい」
振り返ると、結衣が笑っていた。
けれど、その目はどこか心配そうだ。
「ただいま」
そう返しながらも、
自分の声が少しだけ遠く感じた。
結衣は気づいている。
大和の“上の空”の理由を。
でも、何も言わない。
言えないことを知っているから。




