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日常が割れていく
昼過ぎ。
ひとりになったリビングで、
葵はスマホを手に取った。
結衣の名前をタップしようとする。
——指が震えて止まる。
「……見られたら、どうしよう」
その思考が、
葵の胸を冷たく締めつけた。
俊介は今、家にいない。
なのに、
葵は“監視されている気配”から逃れられない。
自分がこんなふうに怯えていることに気づき、
涙がぽたりと落ちた。
結衣の声が聞きたい。
北海道の空気に触れたい。
助けてほしい。
でも——言えない。
俊介に救われた過去が、
葵を縛っている。
「……私が我慢すればいい」
その言葉を呟いた瞬間、
胸の奥で、
何かが小さくひび割れた。
葵はまだ気づいていない。
それは、
“助けを求める最初のサイン”だった。




