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軋んでいく
「朝ごはん、作っておいたよ」
俊介は優しい。
優しすぎるくらいに。
テーブルに並ぶ料理。
笑顔。
気遣い。
肩に触れる指先。
全部、以前と同じはずなのに。
葵の心は、
そのひとつひとつに軋む音を立てる。
俊介の手が触れた瞬間、
身体がわずかに強張った。
「……どうしたの?」
「ううん、なんでもないよ」
笑ってごまかす。
そうするしかない。
俊介を変えたのは自分だ。
俊介が壊れたら、それは自分のせい。
そう思い込んでいるから、
拒絶なんてできない。
でも——
触れられるのがつらい。
子どもの話をされるたび、
胸の奥がざわつく。
“この人と未来を作れない”
その感覚だけが、
静かに、確実に広がっていく。




