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執着
「荷物、俺が片付けるよ」
そう言いながら、
俊介は葵のスーツケースを勝手に開けた。
服を一枚ずつ取り出し、
指で布をなぞり、
鼻先に近づける。
「……寂しかったんだよ」
背後から抱きしめられた。
腕に力が入る。
逃げられないように。
「葵がいないと、俺……ダメなんだ」
耳元で囁く声は甘いのに、
その奥にあるものは甘くない。
葵は笑ってごまかした。
そうするしかなかった。
でも胸の奥では、
北海道で取り戻した“自分”が
静かに悲鳴を上げていた。
俊介の腕の中で、
葵は気づく。
――私は、また息ができなくなる。




