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帰冷
東京の空気は、北海道より重い。
玄関の鍵を回した瞬間、
胸の奥がすっと冷えた。
「……おかえり」
俊介の声は、いつもより低い。
笑っているのに、温度がない。
北海道で深く吸い込んだ空気が、
一瞬で肺から抜けていく。
葵は靴を脱ぎながら、
自分の心が“現実”に戻っていくのを感じた。
結衣との時間。
雪の匂い。
居酒屋「灯」の温かい光。
大和の気配だけが残る店内。
全部、遠ざかっていく。
「……ただいま」
声が少し震えた。
俊介の視線が、
葵の全身をゆっくりと舐めるように動いた。
その瞬間、
北海道で羽を伸ばしていた自分が
“許されないもの”に変わった気がした。




