北海道最後の夜②
結衣からの優しい言葉を読み返しながら、
葵はゆっくりと画面を開いた。
明日には東京に戻る。
俊介のいる家に戻る。
息苦しさの中に戻る。
この夜が終わったら、
また“いつもの自分”に戻らなきゃいけない。
だからこそ、
今だけは素直でいたかった。
震える指で、
ゆっくりと言葉を打つ。
「明日、東京に戻ります。
なんだか…あっという間でした」
本当は、
戻りたくない。
このまま雪の中にいたい。
でもそんなこと、言えるはずがない。
「結衣さんとお話できて、
本当に良かったです」
それは嘘じゃない。
むしろ、今日いちばんの本音だった。
結衣と話すと、
自分の気持ちが少しだけ整理される。
怖いけど、救われる。
「色々聞いてくださって、
ありがとうございました」
送信ボタンを押す前に、
ふっと胸が痛んだ。
(……本当は、もっと話したいのに)
でも言えない。
言ってはいけない。
俊介の顔が浮かぶ。
大和の記憶が浮かぶ。
その間で揺れる自分が、
どうしようもなく苦しい。
「また…お話できたら嬉しいです」
それだけを残して、
葵はそっと送信した。
雪の降る北海道最後の夜。
葵の心は、
静かに、でも確かに揺れていた。




