208/284
北海道最後の夜①
またスマホが震えた。
結衣からの返信。
「無理に話さなくて大丈夫ですよ。
葵さんが大切にしてた気持ちなんだろうなって」
優しい。
優しすぎる。
その優しさが、
胸を締めつける。
(……大切に、してた?
そんな気持ち、持っていいはずないのに)
俊介の存在。
大和の奥さんの記憶。
全部がブレーキになる。
気づいてはいけない。
認めてはいけない。
言ってはいけない。
でも——
心はもう、止まらない。
明日には東京に戻る。
現実に戻る。
北海道最後の夜。
葵はスマホを胸に抱え、
静かに目を閉じた。
逃げられない気持ちが、
そっと形になり始めていた。




