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蘇る横顔
「そういえばさ」
和田が湯飲みを拭きながら言った。
「昔ここで働いてた女の子、いたろ。
えっと……誰だっけ。お前がよく気にかけてた子」
大和の指が、熱燗の器の縁で止まった。
「……及川さん、ですか」
「ああ、その子だ。
真面目で、よく笑う子だったよな」
大和は答えず、
ポケットのスマホをそっと握った。
インスタのリールについた、
一瞬だけの「いいね」。
すぐに消えた。
名前も、確信も、何も残らなかった。
ただ、
“及川さん”という響きだけが
胸の奥に静かに沈んでいく。
——今、どこで何をしているんだろう。
もちろん、大和は知らない。
知るはずもない。
ただ、
今年はどうしても、この灯りの下に来たかった。
外では、雪がまた降り始めていた。




