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踏み出す一歩
結衣からの「ゆっくり休んでください」という優しい言葉を何度も読み返しながら、
葵は胸の奥のざわつきがどうしても消えないことに気づいていた。
(……このままじゃ、落ち着かない)
聞かない方がいい。
踏み込む理由なんてない。
ただの客なのに。
そう思っていたはずなのに、
心はもう言い訳を探すのをやめていた。
スマホを握りしめ、
葵は深呼吸をひとつ。
(ちゃんと伝えた方がいい……よね)
指が震える。
でも、逃げたくなかった。
「実は、店長さんと以前一緒に働いてまして。
偶然インスタでお店を見つけて、
社員旅行でも伺って……
なんだか懐かしくなっちゃって。
昨日いらっしゃらなかったので、
つい気になってしまって……すみません」
送信ボタンを押した瞬間、
胸がぎゅっと締めつけられる。
(……言っちゃった)
でも、どこかで少しだけ、
肩の力が抜けた気がした。




