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待ち遠しい
「昨日……店長さん、いらっしゃらなかったんですか?」
送信ボタンを押した瞬間、
葵の心臓は大きく跳ねた。
(……聞いちゃった)
聞くつもりなんてなかった。
ただ、結衣の言葉の端々に、
昨日の店の灯りがふっと蘇ってしまっただけ。
あの夜の冷たい空気。
木の匂い。
暖簾の揺れ。
そして——
そこにいなかった大和。
(なんで……こんなに気になるんだろう)
自分でも理由が分からない。
ただ、胸の奥がざわついて、
落ち着かなくて、
気づけば指が動いていた。
画面を見つめながら、
葵は深く息を吸った。
(変に思われないかな……)
結衣は優しい。
押しつけがましくもない。
だからこそ、
こんな質問をしてしまった自分が少し恥ずかしい。
通知が鳴るのが怖くて、
でも待ってしまう。
雪の降るホテルの部屋で、
葵はスマホを胸に抱えたまま、
そっと目を閉じた。




