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優しい灯り
店の前に立つ。
入るつもりなんてなかった。
でも、足が動かない。
看板を見つめる。
扉の向こうにある空気を思い出す。
昨日のざわめき、灯りの色、木の匂い。
(……店長)
大和の顔を思い出した瞬間、
胸がぎゅっと締めつけられた。
そのとき、店の扉が開いた。
「……あれ?」
エプロン姿の結衣が、外に出てきた。
ゴミを出しに来たのだろう。
ふと視線を上げた結衣の目が、葵を捉えた。
一瞬、結衣の表情が揺れる。
(この人……昨日の……)
葵は気づかない。
ただ、看板を見つめたまま立ち尽くしている。
結衣は声をかけようとして、
そっと口を閉じた。
(……もしかして、この人が)
確信はない。
でも、胸の奥に小さなざわめきが生まれた。
葵は結衣に気づかぬまま、
ゆっくりと背を向けて歩き出した。
結衣はその背中を、しばらく見つめていた。
その夜。
結衣はスマホを開き、
大和から聞いたインスタの「いいね」のことを思い出す。
(……あの人、名前なんて言うんだろう)
わずかな期待を胸に大和のアカウントを開く。




