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観光の空白
翌朝、社員旅行2日目。
雪の積もった街を、同僚たちと歩く。
ガイドの声、笑い声、シャッター音。
全部が耳に入ってくるのに、どこか遠い。
(……なんでだろう。昨日からずっと胸がざわついてる)
白い息を吐きながら、葵は観光地の展望台から街を見下ろした。
雪景色は綺麗なのに、心は落ち着かない。
昨日の居酒屋「灯」の空気が、まだ胸の奥に残っている。
木の匂い。
灯りの色。
カウンターの丸み。
そして、結衣の顔。
(どうして……あんなに気になるんだろう)
同僚に「写真撮ろうよ」と呼ばれ、笑顔を作る。
でも、心だけが別の場所にいた。




