156/290
渇愛
翌朝。
葵は少しだけ目を腫らしていた。
「大丈夫?」
「……うん」
その“うん”が嘘だと分かる。
でも、追い詰めたくなかった。
追い詰めたくないのに——
(俺の方を見てほしい)
その欲が、
喉の奥で熱を持って膨らんでいく。
「葵……
俺たち、家族になりたいんだ」
葵の表情が一瞬だけ曇った。
その曇りが、俊介の胸を刺す。
(なんでそんな顔するんだよ……
俺じゃ、足りないのか)
葵の沈みを止めたい。
でも、
葵の心がどこか別の場所にある気がして、
怖くてたまらない。
(俺だけを見てくれよ……
お願いだから)
その願いは、
愛というより“渇き”に近かった。
葵の沈みを救いたい。
でもそれ以上に、
葵を失う未来が怖すぎた。
俊介は気づいていた。
自分が今、
愛ではなく“渇愛”に飲まれ始めていることに。




