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逼迫
葵の様子が変だと気づいたのは、
ここ数日のことだった。
笑うけれど、目が笑っていない。
返事はするけれど、どこか遠い。
呼んでも、心だけが返ってこない。
(なんで……どうしてだよ)
胸の奥がざわつく。
葵は優しい。
優しいからこそ、沈んでいくときは声を上げない。
俊介は分かっていた。
気づいていた。
でも——
(離れないでほしい)
その気持ちが、
すべての判断を曇らせていく。
「葵、今日帰ったら話そう。
これからのこと、ちゃんと考えたいんだ」
葵の肩がわずかに揺れた。
その反応が、俊介の胸を締めつける。
(嫌なのか……?
俺と未来の話をするのが……?)
焦りが喉の奥で膨らんでいく。
葵の沈みを止めたい。
でも、それ以上に——
繋ぎ止めたい。
その欲が、静かに膨らんでいった。




