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名前のない灯り
結衣は続けた。
「奥さんを大事に思ってるのは、
亡くなった奥さんも、他のみんなも分かってます。
でも……
もう何年経ってるんですか?」
その声は優しいのに、
逃げ場がなかった。
「大和さんの人生……
どうか、凍らせないでほしいです」
その言葉が、
胸の奥の深い場所に落ちていく。
(凍らせてるのか……
俺は……)
葵の名前が、
言葉にならないまま胸の奥で揺れた。
結衣はそっと微笑んだ。
「その灯り……
大事にしていいと思いますよ」
夜の居酒屋「灯」に、
静かな温度が広がっていった。




