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心に刺さる棘
閉店後。
片付けを終え、
大和はカウンターに腰を下ろした。
結衣が隣に座る。
いつものように、少し距離を空けて。
「今日の大和さん……
なんか、誰かのこと考えてましたよね」
大和は息を呑んだ。
「別に。そんなことないよ」
「嘘です」
結衣は優しく笑う。
責める気配は一つもない。
「……その人、大事なんですね」
その言葉が胸に刺さった。
大和は答えられない。
答えたら、何かが変わってしまいそうで。
結衣は続ける。
「大和さんが幸せなら、それでいいんです。
でも……考えないようにって言い聞かせて
逃げてるように見えました」
逃げてる。
その言葉が、静かに心に落ちた。
(俺……何から逃げてるんだ)
答えはまだ分からない。
でも、胸の奥で揺れている名前だけは、
はっきりしていた。




