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隠しごと
夕方。
俊介が買い物に出た。
玄関の扉が閉まる音を聞いた瞬間、
葵の心臓が跳ねた。
(今なら……)
スマホを手に取る。
画面の明かりが、暗い部屋に小さく灯る。
インスタを開く指が震えた。
(見ちゃだめ……でも)
“だめ”と“見たい”が胸の中でぶつかる。
そのたびに、心がきしむ。
タイムラインをスクロールすると、
ふいに大和の投稿が流れてきた。
居酒屋「灯」のカウンター。
湯気の立つ料理。
柔らかい照明。
そして——
大和の、あの穏やかな声。
「今日も一日、お疲れさまです」
その一言で、
葵の胸の奥がふっと緩んだ。
(……あったかい)
涙がにじんだ。
理由は分からない。
ただ、救われたような気がした。




