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静かに広がる揺れ
閉店後。
片付けを終え、
大和は一人でカウンターに座った。
スマホを開く。
昼間の通知はもう消えている。
“いいね”も、跡形もない。
(……本当に、及川さんだったのか)
確かめようがない。
でも、胸の奥のざわつきは消えなかった。
「大和さん」
結衣が声をかけてきた。
帰り支度をしながら、
少しだけ心配そうな顔をしている。
「今日の大和さん、なんか……
誰かのこと、思い出してるみたいでした」
図星だった。
でも結衣は続ける。
「……その人、大事なんですね」
大和は答えられなかった。
ただ、視線を落とす。
結衣はふっと笑った。
「大和さんが幸せなら、それでいいんです。
だから……ちゃんと向き合ってくださいね」
その言葉は、
背中をそっと押すように優しかった。
大和の胸の奥で、
消えたはずの名前が静かに揺れ続けていた。




