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焦燥
朝、葵が出かける準備をしていると、
俊介が何気ないふりをして声をかけてきた。
「今日、何時に帰ってくる?」
その言い方は柔らかい。
けれど、答えを間違えたらいけないような“圧”があった。
「……夕方には戻ると思うよ」
そう言うと、俊介は安心したように微笑んだ。
その笑顔が、どこかぎこちない。
(確認しないと落ち着かないんだ)
俊介自身も気づいていた。
葵の予定を把握していないと、
胸の奥がざわついて、呼吸が浅くなる。
“失いたくない”
その気持ちが、静かに形を変え始めていた。




