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癒しのエルフ  作者: 南蛇井


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シーン4:癒しの試行 ― 完全な不成立

ティエナは、もう一度だけ試すことにした。

確認のための行為だった。


姿勢を整え、呼吸を落とす。

風を招くときの、最も基本的な手順。


力を強めない。

意味づけもしない。

ただ、通す。


――何も起きない。


風は、風としてそこにある。

だが、精霊へと変換されない。

揺らぎも、密度の変化も、兆候すら立たない。


拒絶の感触はない。

弾かれることもない。


消耗も、反動もない。


それは、空振りですらなかった。


ティエナは集中を深める。

意識を研ぎ、感応域を広げる。


それでも――

反応という概念が、最初から用意されていない。


「……」


思わず、息を吐く。


癒しが失敗する時には、必ず何かが残る。

過剰、齟齬、誤読、あるいは社会的な遮断。


だが、ここには何もない。


原因も、結果も、痕跡もない。


ミナは、その様子をじっと見ていた。

期待する目ではない。

評価する目でもない。


「……だめだった?」


問いは、確認に近い。


「ええ」


ティエナは正直に答える。


ミナは一瞬考え、それから小さく頷いた。


「そうなんだ」


声に落胆はない。

肩をすくめるほどの軽さもない。


事実として、受け取っている。


「ここ、効かないこと多いよ」


慰めるようでも、諭すようでもなく。

ただの情報共有だった。


エルネも、特に反応しない。

結果を待っていた様子すらない。


ティエナは、その静けさの意味を理解する。


ここでは、癒しは試されていない。

信仰も、資質も、正しさも、問われていない。


だから――

これは失敗ではない。


判断ミスでもない。

解釈違いでもない。

制度による禁止でもない。


発生しない。


ただ、それだけだ。


精霊が沈黙しているのではない。

沈黙という状態すら、前提にない。


癒しは、起きうる現象として登録されていない。


ティエナは、手を下ろす。


胸の奥に残ったのは、無力感ではなかった。

戸惑いでも、敗北でもない。


――世界の外縁に立った感覚。


自分が正しいかどうかを、

この土地は、そもそも問わない。


ミナは寝台に横になり直し、天幕の布を見上げた。


「お腹すいたな」


生きる方向に、視線が戻っている。


ティエナは、その横顔を見つめながら、静かに理解した。


ここでは、

癒しが成立しないことは、

生きることの否定ではない。


そしてこの「不成立」は、

これまで彼女が経験してきた

どの挫折とも、決定的に違っていた。

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