93/127
scene8 章の締め ― 武器になった癒し
癒しは、人を救う力だった。
泣く者に触れ、
立てない者に手を差し伸べ、
声にならない苦しみを、関係として結び直す力だった。
だが今、それは――
選ばれた者にだけ与えられ、
選ばれなかった者を、静かに黙らせる力に変わっていた。
誰も殴っていない。
誰も罰していない。
命令も、断罪もない。
帳簿は整い、
配給は続き、
言葉は礼儀正しかった。
それでも確かに、
アマリは外された。
列の後ろへ。
役割の外へ。
判断の対象から。
彼女は失敗していない。
罪も、逸脱もない。
ただ――
癒されなかった。
それだけで、
社会から薄く、削がれていった。
癒しは、この日、
希望でも、祈りでもなくなった。
誰を守り、
誰を切り捨てるかを示す、
沈黙した刃になった。
そしてその刃は、
血を流さずに、
確実に人を分けていた。
癒しは、この日、
武器になった。




