scene7 癒しを拒まれる癒し手
ティエナは、今度はためらわずに申し出た。
慎重な言葉選びでも、遠回しな示唆でもない。
「私が、診ます」
短く、はっきりと。
その場にいた調整官は、即答しなかった。
一瞬、周囲を見回し、声量を落とす。
配給所や職場で使われる、あの“問題を起こさない”口調だった。
「お気持ちは理解します」
拒否ではない前置き。
だが、その先は明確だった。
「ですが、あなたの介入は――誤解を招きます」
ティエナは黙って聞いた。
「現在の状況下で、個別の癒しが発生すると」
「選別の基準について、不要な憶測が生まれかねません」
別の官が、補足するように続ける。
「今は、沈黙を尊重すべきです」
「精霊が語らない以上、我々も静観する必要があります」
言葉は穏やかで、論理は整っていた。
敵意も、侮蔑もない。
ティエナは、その場で理解した。
自分は危険人物ではない。
反逆者でも、扇動者でもない。
ただ――制御できない。
彼女の癒しは、制度を経由しない。
記録を待たず、評価に従わず、
必要と判断された者だけを選ばない。
それが、問題なのだ。
「禁止ではありません」と調整官は言った。
「ただ、今は適切ではない」
同じ意味だった。
癒し手でありながら、
癒しを使う場所を持たない。
ティエナは一歩、引いた。
精霊に意識を向けるが、応答はない。
拒絶ではない。
期待もされていない。
彼女は、この街にとって
“正しく扱えない存在”になったのだ。
癒しを使えない癒し手。
それは欠落ではなく、
この章が辿り着いた、必然的な結論だった。




