scene6 アマリの静かな排除
通知は、朝の業務開始前に届いた。
封は簡素で、行政印も薄い。急ぎでも、重大でもない書式。
「一時的な配置調整について」
アマリは読み上げるように目を走らせ、そこで止めた。
内容は短い。
現在の職務は保留。
代替要員が充足するまで。
再配置の時期は未定。
理由は書かれていない。
正確には、「調整のため」とだけあった。
職場の責任者は、困ったように微笑んだ。
「個人の問題じゃないんだ。全体の配分でね」
「君が何か失敗したわけじゃない」
それは事実だった。
彼女は規定通り働き、遅刻もなく、評価も標準。
逸脱はない。
だからこそ、誰も強い言葉を使わなかった。
「しばらく、こちらは必要ないという判断で……」
アマリは、静かに頷いた。
「そうですか」
それだけだった。
抗議はしない。
理由を求めもしない。
声の調子も変わらない。
同僚たちは一瞬、何か言いかけて、やめた。
慰めは不要だと、空気がそう告げていた。
住居は変わらない。
配給も、最低限は維持される。
名前も帳簿から消えない。
だが、役割だけが削られた。
昼時、彼女は広場の端に座っていた。
人の流れは途切れず、誰も彼女を避けてはいない。
挨拶もされる。
ただ、用がない。
呼ばれない。
割り振られない。
アマリは、手を膝に置いたまま、動かなかった。
泣かない。
怒らない。
疑問すら、表に出さない。
その姿は、街の理想と完全に一致していた。
彼女は追い出されてはいない。
壁の外にも、列の外にもいない。
だが、社会の厚みから、
一枚ずつ、静かに剥がされていく。
選ばれなかった人々は、
こうして音もなく、
「中にいながら、外になる」。




