scene4 ティエナの介入
アマリの立ち姿を見た瞬間、ティエナは足を止めた。
疲労は深刻ではない。歩調も安定している。倒れる兆候はない。
それでも――何かが、引っかかる。
意識を澄ませると、微かな感触が返ってくる。
精霊の反応は弱い。以前のような流れはない。だが、完全な空白でもなかった。
「……いる」
ティエナは小さく息を整え、手を伸ばそうとする。
風を通すだけでいい。深い癒しではない。ただ、つながりを確かめるための呼びかけ。
その瞬間、横から声がかかった。
「お待ちください」
行政調整官だった。配給所を管轄する立場の男。表情は穏やかで、声も低く、礼を欠かない。
「現在、個別介入は推奨されていません」
ティエナは手を止めた。
「……理由を、聞いても?」
「はい。全体の均衡に影響しますので」
即答だった。用意された文言。迷いはない。
「癒しは、今や結果として観測されるべきものです。介入が先行すると、判断が歪みます」
禁止とは言わなかった。
やってはならない、とも言わなかった。
ただ、「推奨されていない」と述べただけだ。
それで十分だった。
ティエナは、そこで理解する。
癒しは力ではなくなっている。
恵みでも、祈りへの応答でもない。
配分される資源だ。
順序と評価に従って、使われるべきもの。
「……分かりました」
そう答えた自分の声が、ひどく遠く感じられた。
手を下ろすと、精霊の感触はさらに薄れる。拒絶ではない。ただ、接続が切られたような感覚。
アマリは、二人のやり取りを少し離れた場所から見ていた。
何も言わない。期待も、失望も、表に出さない。
それが、今の正しい態度だと知っているかのように。
ティエナは、彼女の前で何もできなかった。
癒しは、勝手に使える力ではなくなっていた。
許可され、管理され、均衡の名の下に制限されるものになっていた。
その現実が、静かに、しかし確実に突きつけられていた。




