scene3 噂ではなく、分類
配給所から少し離れた通り。人の流れが緩む場所で、二人の市民が足を止めていた。
声は低い。周囲に配慮した、控えめな会話だった。
「……あの人、まだなんだって」
名前は出ない。それでも、どちらも同じ人物を思い浮かべている。
「そう。試練の途中なんでしょうね」
「ええ。焦らない方がいいわ。選ばれる時は、ちゃんと来るもの」
慰めの調子だった。責める響きはない。ましてや嘲笑もない。そこにあるのは、納得と整理だった。
二人はそれ以上言葉を重ねず、それぞれの方向へ歩き出す。会話は、噂として広げるためのものではなかった。ただ、共有された理解を確認しただけだ。
少し離れた場所で、アマリは立ち止まっていた。
直接聞いたわけではない。声も、単語も、耳には届いていない。それでも、空気の向きが変わったことは分かる。
視線が、以前より一瞬遅れて外れる。
声をかけられる頻度が、わずかに減る。
列に並ぶと、前後に小さな間ができる。
誰も彼女を避けているわけではない。挨拶も、形式的なやり取りも、これまで通りだ。ただ、無意識の距離が生まれている。
――まだ、なんだ。
その言葉が、評価として定着している。
癒されていないことは、状態であり、段階であり、説明可能な位置づけだった。そして同時に、人となりを示す指標にもなっていた。
努力不足ではない。罪でもない。
だが、「今の彼女」を語るには十分だった。
排除は、もはや噂ではなかった。
街の中で、静かな分類として機能していた。
癒しは恵みではなく、
人を測るための、分かりやすい印になっていた。




