scene2 アマリという空白
行政庁舎の一室。外光の届かない簡易会議室で、数名の職員が記録板を囲んでいた。
議題は多くない。配給調整、癒し対象の整理、報告書の確認。その流れの中で、一つの名が淡々と読み上げられる。
「……アマリ」
誰かが記録板を操作し、項目を順に確認していく。
信仰――標準。
労働評価――標準。
逸脱行為――なし。
読み上げる声には抑揚がない。それぞれが「問題なし」を意味する欄だ。訂正も補足も入らない。
最後の項目で、指が止まる。
精霊応答履歴。
そこだけが、空白だった。
誰かが一度、喉を鳴らす。だが、それ以上の反応はない。記録としては珍しくもない、と言わんばかりに、次の者が口を開く。
「問題はありません」
異論は出ない。事実として、アマリは何一つ違反していない。勤勉で、従順で、規定から外れた行動もない。
別の職員が続ける。
「……ただ、優先対象ではありません」
それもまた、淡々とした判断だった。罰ではない。制裁でもない。ただ、順位の問題として処理される。
誰かが「失格ではないのですね」と確認するように言う。
「ええ。失敗はしていません」
即座に返答がある。
「証明が、ないだけです」
精霊に応えられた記録がない。選ばれたという痕跡がない。それだけで、彼女は一覧表の下方へと静かに移される。
議論はそこで終わる。名前は閉じられ、次の案件へ進む。
アマリは何も失敗していない。
ただ、選ばれたと示されなかった。
その空白が、彼女のすべてを決めていた。




