第12章:選ばれなかった人々 scene1 配給列の違和感
エル=カナ外縁の配給所は、いつもと変わらない朝を迎えていた。
石敷きの広場に引かれた白線に沿って、市民たちが整然と列を作っている。誰もが静かで、急ぐ者はいない。荷車の軋む音と、帳簿を繰る紙の擦れる音だけが、規則正しく空気を刻んでいた。
配給官は穏やかな顔つきで、一人ずつ名前を確認し、淡々と袋を手渡していく。そこに感情はない。仕事として、必要な手順をなぞっているだけだ。
アマリは列の後方にいた。前の人々の背中を眺めながら、足元の石を数える。列は少しずつ進み、やがて彼女の番が来る。
配給官は顔を上げ、彼女の名を帳簿で探した。
指が止まる。
ほんの一瞬だった。だが、その沈黙は、周囲の空気をわずかに変えた。配給官は何度か頁を行き来し、もう一度、確認するように目を落とす。
「……」
彼は顔色を変えないまま、別の棚から袋を取った。大きさは、他の人に渡していたものより、少しだけ小さい。
「……今回は、こちらで」
それだけ言って、差し出す。
声は柔らかく、説明も理由もない。問い返す必要があるとも、問い返してよいとも示されなかった。
アマリは袋を受け取り、軽く頭を下げる。重さの違いは、手に取った瞬間に分かったが、口には出さない。列の後ろでは、次の市民がすでに前へ進んでいた。
誰も声を荒げない。誰も抗議しない。配給所の流れは、何事もなかったかのように続いていく。
ただ、確かにそこには「差」があった。
それは始まったばかりの排除ではない。すでに手順として組み込まれ、静かに機能している排除だった。




